グローバル化が進む中で、多くの製造業企業が激しい価格競争や品質要求の高まりに直面しています。そんな中、原価低減や品質維持・向上を同時に目指す方法として注目を集めているのが「VE提案(Value Engineering提案)」です。従来のコストダウン策とは違い、単に安価な材料に切り替えるだけでなく、製品の機能を正しく分析し、不要なコストを除きながら付加価値を最大化する点がVE提案の特徴といえます。
本記事では、製造業で役立つVE提案の基本をあらためて整理し、VA提案との違いや、メリット・手順・実施時のポイントなどを解説します。さらにVEの歴史にも触れ、現代の製造現場でどのように活用できるのかを考察します。
自社の製品コストを見直す際の参考にしていただければ幸いです。
VE提案とは
VE(Value Engineering)とは、本来の機能・品質を維持または向上させながら、余分なコストを削減し、製品やサービスの価値を高めようとする手法です。アメリカのGeneral Electric社で第二次世界大戦中に考案されたとされ、日本では高度経済成長期に広がりを見せました。
VE提案は、その考え方や手順に基づいて「こんな設計に変えれば、コストが下がるのでは?」といった提案を行う活動を指します。
VA提案との違い
似たような概念にVA(Value Analysis)提案があります。VEとVAを区別する基準としては、主に以下のように考えられます。
- ・VE提案:新規の設計開発段階でのアプローチ。製品やプロセスを設計する際に、機能とコストの最適化を目指す。
- ・VA提案:既存製品の改良や見直しを行う際のアプローチ。すでにある製品の不必要なコストを洗い出し、改良することでより高い価値を提供する。
ただし、実務上はVEとVAの境界が曖昧なことも多く、両者を合わせて「VE/VA提案」と呼ぶ場合もあります。
VE提案のメリット
VE提案を実施すると、開発現場や生産工程で多くのメリットが得られます。具体的には、以下のような効果が期待されます。
メリット①客観的な視点を入れることで改善策が見つかる
従来の設計や慣習的な手順にとらわれず、製品や部品の「本来必要な機能は何か」を再検討するため、意外なコストダウンポイントが発見できることが多いです。VE提案では数値による客観的評価や機能分析が重視されるため、思い込みによる無駄を省ける可能性があります。
メリット②時間の短縮やコストダウンにつながる
適切にVE提案が行われると、要素部品の削減や設計の合理化により生産性が向上し、製造時間の短縮や原価低減が実現します。部品点数が減るほど組立工数や在庫管理が簡素化され、結果的にコスト全体を抑えられます。
メリット③技術者がいなくても相談できる
VE提案は、専門的な知識が必要な場面もありますが、基本的には「機能とコストのバランス」という観点から製品を評価するため、技術畑でない人も参加しやすいとされています。外部の調達担当者や購買担当者などが、客観的なコスト面の視点から提案を行うことも少なくありません。
VE提案の手順
VE提案を体系的に進めるために、一般的に「機能分析」「コスト分析」「代替案の考案」の3ステップが用いられます。これらはVE手法の基本プロセスを簡略化したもので、実際の企業ではさらに細分化や追加ステップを設定している場合もあります。
ステップ①機能分析
まずは製品の機能を定義し、その重要度や優先度を明確化します。ここでのポイントは、機能を「必要不可欠な機能」「付加的な機能」などに分けることです。製品がユーザーに提供すべき本質的な価値を見極めるのが狙いとなります。
ステップ②コスト分析
次に、各機能にかかるコストを洗い出します。部品単価や生産工数などを詳細に調査し、どの機能がコストを大きく占めているかを把握します。ここで大切なのは、機能ごとにコストを割り振る「機能コスト法」などの手法を用いて、見える化することです。
ステップ③代替案の考案
機能分析とコスト分析の結果から、コストダウンや機能強化の可能性を探り、具体的な代替案を立案します。例えば、部品を共通化して部品点数を減らす、材質を変更して軽量化・低コスト化を図る、製造工程を省略するなどのアイデアが検討されます。 代替案は、製品品質や安全面に悪影響を与えないか、社内外の利害関係者との合意が得られるかも考慮しながら最終的に選定されます。
VE提案のポイント
VE提案を成果につなげるためには、いくつかの重要な観点があります。
特に製造業においては、品質・納期・コストのバランスを崩さずに実施することが求められます。
初期段階は大きなコスト削減が見込める
製品ライフサイクルの初期、例えば開発段階でVE提案を行うと、大幅なコスト削減につながることが多いです。後工程で設計変更すると手戻りが大きくなるため、なるべく早い段階でVEを検討するのが効率的です。初期の段階であれば、仕様変更や部材選定を柔軟に行える利点があります。
ゼネコンのVE提案も積極的に取り入れる
建設分野などでは、ゼネコンが工法や構造の工夫によるVE提案を行うことがあります。製造業でも、生産ラインの建屋や設備投資に関する建設コストを下げるため、ゼネコンとの連携によるVE提案が有効な場合があります。設備の設計段階からVEを導入することで、後からの大規模修正を最小限にとどめることが可能です。
ランニングコストを見据える
VE提案では初期費用の低減だけでなく、運用・保守費用などのライフサイクルコストを考慮した設計が重要です。短期的には安価だが、保守・消耗品が高額となる材料や方式は、結果的に総コストを押し上げることがあります。長期的視点でコストと価値を比較検討すると良いでしょう。
機能や品質が低下する提案にならないようにする
VE提案は、あくまで必要な機能を維持したうえでのコスト削減が目的です。機能や品質を大きく落としてしまえば、それは単なるコストカットに過ぎず、市場競争力を失うリスクもあります。コストダウンの提案が製品の信頼性や安全性を損なわないか常に確認が必要です。
専門知識をもつプロを起用する
VE提案には、設計や生産技術、調達など各分野の専門家が必要となるケースがあります。また、外部コンサルタントやサプライヤーと協力することで、新しい技術や代替材料のアイデアが得られる可能性も高まります。社内メンバーだけでなく、外部リソースの活用を検討することが成功の鍵です。
VE提案の歴史
VEの起源は、第二次世界大戦中の米国に遡るといわれています。資材や人材が不足する中で、General Electric社のローレンス・マイルズ(Lawrence D. Miles)が、同じ機能を低コストで実現するための手法を開発したのがVEの始まりとされます。 その後、日本においては高度経済成長期に製造業を中心に導入が進み、品質やコスト、納期のバランスを取る技法として広く認知されるようになりました。近年では環境負荷やライフサイクルコストといった視点も組み込まれ、さらに発展を続けています。
VE提案は単なるコスト削減ではない
製造業におけるVE(Value Engineering)提案は、製品の本質的な機能とコストの最適化を両立させ、品質を損なうことなくコストダウンを実現するための非常に有効な手法です。
特に開発の初期段階でVEを導入することで、大幅なコスト削減とともに、製品そのものの競争力強化が期待されます。
しかしVE提案は、単なるコスト削減活動とは一線を画し、必要不可欠な機能を見極めつつ(F:機能向上)、最適コスト(C)の実現と価値向上(Value up)を同時に目指す、高度なバランスが求められる取り組みです。
さらに、ライフサイクルコストや品質の維持といった多面的な視点からの評価も重要となります。
VEのプロセスとしては、まず顧客要求の抽出から始まり、機能の定義、機能系統図の作成、機能別コスト分析へと進み、
その中で特にコストが集中している機能を優先的に抽出し、そこに対して異分野のメンバーを交えながら代替案を検討していくことがポイントとなります。
また、代替案の検討においては、専門家や外部コンサルタントの知見を取り入れながら、社内の関係部門と密接に連携を図ることが成功の鍵となります。
特に新たな材料や工程の導入には一定のリスクが伴うため、メリットとデメリットの両面をしっかりと評価し、関係部門からの合意形成を得ることが不可欠です。
このようにVE提案は、コスト削減だけにとどまらず、企業の技術力・組織力・市場対応力を総合的に底上げする絶好の機会となり得ます。
このような取り組みをご検討の際には、ぜひファンクショナル・インプルーブメントまでお気軽にお問い合わせください。
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