製造業では、材料費や労務費をはじめとするさまざまなコストが製品の原価を形作っています。原価管理を徹底することは利益率の向上や競争力の強化に欠かせませんが、システム導入のコストなどを理由に、エクセル(Excel)を使い続けている企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、「Excelで本当に原価管理が可能なのか」という疑問に答えるとともに、メリット・デメリットとともに活用ポイントを解説します。
加えて、原価管理をエクセルで行う具体的な手順や、テクニック、無料テンプレートの存在も紹介します。
自社での原価管理を見直したい方や、システム導入を検討しているがまずはExcelで始めたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
Excelで原価管理は可能?
製造業の原価管理は、製品ごとの材料費・労務費・経費などを整理して、利益率や採算性を把握する作業です。専用システムやクラウドサービスを使わず、Excelだけで対応している企業も少なくありません。 結論からいえば、Excelで原価管理は「可能ではある」が、規模や複雑さが増すほど管理が難しくなる面も否めません。
継続的な運用が重要な業務なので、Excelでの管理が実務に合っているかどうかを見極める必要があります。
Excelで原価管理をするメリット
Excelで原価管理を行う最大の魅力は、コストをかけずにすぐに始められる点にあります。専用システムの導入は高額なライセンス費やカスタマイズ費が必要になりがちですが、Excelならすでにオフィスソフトが導入されている場合は追加の出費が最小限です。
以下では3つのメリットを見てみましょう。
メリット①新しくツールを導入する必要がない
Excelはほぼすべての企業で導入済みのケースが多いため、原価管理を始めるにあたり新たなソフトウェアやハードウェアを購入する必要がありません。クラウドサービスのように月額料金もかからず、既存のPC環境で使用できます。
特に小規模な製造業や、まだ生産規模が大きくない企業にとっては、導入コストがほとんどかからないのは大きなメリットです。
メリット②使い慣れている従業員が多い
Excelはビジネスの現場で広く使われており、既に多くの従業員が基本的な操作に習熟している可能性があります。複雑なトレーニングや操作マニュアルの作成が最小限で済むため、すぐに原価管理をスタートできるのが強みです。 また、関数やマクロを活用してカスタムした集計表を作るなど、従業員が自力で改善を図りやすい面もあります。
メリット③テンプレートが配布されている
Excelで原価管理やコスト管理を行うためのテンプレートが、インターネット上で数多く公開されています。無料でダウンロードできるものもあり、初心者でも手軽に利用可能です。 テンプレートを活用すれば、必要な関数やシート構成があらかじめ設定されているため、自社の状況に合わせて微調整するだけで基本的な原価管理表を作成できます。
Excelで原価管理をするデメリット
Excelだけで原価管理を行う場合、ファイル管理や属人化など、多くの企業が頭を悩ませるポイントが出てきます。
メリットを理解した上で、デメリットを十分に把握しておくことが大切です。
デメリット①属人化が起こりやすい
Excelのファイルが個人のPCに保存され、数式やマクロがその人しか理解していない状態になると、担当者が退職や異動した際に引き継ぎが困難になります。ファイル構造や計算ロジックを誰も把握できず、運用が止まるリスクが高いです。
定期的なマニュアル化やチームでの情報共有を行わないと、属人化が進んでしまい、長期運用に難が生じるでしょう。
デメリット②最新版を共有するのが難しい
Excelファイルをローカルで管理していると、複数の担当者が同時に更新したり、違うバージョンを使ったりするなどの混乱が起きがちです。
「最新の数値がどれか分からない」
「誰かが上書きしてしまった」
など、バージョン管理の問題でミスが増えます。 クラウドストレージや共有ドライブを活用するとある程度は改善できるものの、リアルタイムな同時編集には対応が難しく、完全な同期を保つのは容易ではありません。
デメリット③ファイルを管理する手間がかかる
Excelファイルが複雑になると、シートや関数が増え、さらに運用するファイル数自体が増えていく可能性があります。どこに何が書いてあるかを確認するだけで時間がかかり、本来の原価分析や改善提案に十分なリソースを割けなくなるリスクがあります。
データのバックアップも含め、頻繁なメンテナンスを要するため、業務効率を低下させる要因になりかねません。
Excelで原価管理をする手順
Excelで原価管理を行う際は、まず必要なデータや構成を整理し、テンプレートやフォーマットを準備するのが基本です。
以下のステップを踏むことで、最小限の混乱で原価管理を始められます。
ステップ①原価計算に必要なマスタデータを用意する
原価計算には、製品や部品の標準原価、材料単価、労務費、経費など多種多様なデータが必要です。各種マスタを整備しておくことで、Excel上での計算がスムーズになります。
具体的には、以下のような項目をマスタ化するケースが多いです。
- ・製品コード、部品コード
- ・各部品の単価、消費数量
- ・作業工数、作業者の時給、間接費の配賦率
ステップ②テンプレートを用意する
Excelで作る原価管理表は、見積もり・実績比較・差異分析などのシートに分かれる場合が多いです。
市販やWebで公開されているテンプレートを活用しつつ、自社の製品や工程に合わせてカスタマイズしましょう。 管理したい指標が多い場合は、シートやファイルが増える傾向にありますが、管理する方が混乱しないようにシンプルな構成から始めるのが無難です。
ステップ③必要な項目を入力し、計算式を設定する
テンプレートに沿って、材料費・労務費・経費などのデータを入力し、必要な計算式を設定します。
例えば、部品×数量で材料費を計算し、そこに作業工数×時給の労務費を足し、さらに間接費を配賦することで総原価を求めるといった流れです。 作業工数は実績データを入力し、予定工数との差を算出することで、作業効率の評価やコスト差異分析が可能となります。誤入力を防ぐために、データの入力規則やエラーチェック機能を活用すると良いでしょう。
Excelで原価管理をする際に有効なテクニック
Excelの機能を使いこなすことで、集計作業や分析を効率化し、原価低減につなげられます。
下のテクニックは特に役立つでしょう。
関数を活用する
SUMやAVERAGEなどの基本的な関数に加え、IFやVLOOKUP、INDEX・MATCHなどを使えば、材料や工程別に細かい計算を自動化できます。部門ごと・工程ごとに集計して合計値を出す、条件分岐で特定の項目だけ抽出するなど、多彩な活用が可能です。
ピボットテーブルを活用する
大量のデータを取りまとめ、部門別や製品別に原価を集計する場合、ピボットテーブルが有効です。ドラッグ&ドロップでデータの切り口を変えられるため、原因分析や比較に便利です。更新も簡単で、定期的な報告資料の作成に重宝します。
グラフを活用する
数字だけでは把握しにくいコスト推移や差異を、グラフ(折れ線、棒、円など)で可視化することで、チームや上層部への共有がスムーズになります。Excel内でグラフ化まで完結するので、外部ツールを使わずに素早く見える化が可能です。
マクロを活用する
定型的な作業を自動化するために、マクロ(VBA)を使う方法もあります。原価データの取り込みから加工・集計・レポート出力まで、自動化すれば属人化をある程度防ぎつつ効率化が期待できます。
ただし、マクロのメンテナンスやセキュリティリスクも考慮が必要です。
原価管理に便利なExcelの無料テンプレート
Microsoftなどが配布しているExcelテンプレートを活用すると、複雑な関数設定やデザインを自分で作りこむ手間を省けます。ここでおすすめなのが、Microsoftが提供する「活動ベースのコスト管理」のテンプレートです。 これはABC(Activity Based Costing)を意識した構造で作られており、プロセスごとにコストを割り当てる形式が手軽に試せます。導入前の試験的な運用や、小規模製造ラインの原価管理に適しています。
メリット・デメリットを理解したうえでエクセルでの原価管理を検討しよう
Excelでの原価管理は、導入費用がかからず、使い慣れた環境で始められる点が大きな魅力です。一方で、ファイル共有の難しさや属人化などのリスクが伴うため、運用ルールの整備やマニュアル化、定期的なバックアップなどが不可欠となります。
また、Excelは表計算に強みがある反面、大規模データの扱いやリアルタイム共有といった要件にはやや不向きな場合もあります。必要に応じて原価管理システムの導入を検討するなど、運用の効率化とコストを両立させる方法を検討してみてください。
自社の状況や目標に合わせてExcelを活用するか、それとも規模が拡大する場合はシステム導入も望ましい。
原価低減は企業の競争力向上に直結する為、一度きりではなく継続的に取り組む姿勢が成功のカギとなります。
そのような取り組みを検討される際には、ぜひファンクショナル・インプルーブメントまでお問い合わせください。
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