はじめに
「この部品、もっと安くならないか?」と現場でよく言われる一方で、仕入先の見積書には「一式」「材料費・加工費含む」としか書かれておらず、交渉しようにも中身が見えない──。
こんな経験は、調達・購買担当者なら誰もが通る道です。
そこで重要になるのが、「調達コストの構造」を分解して見える化すること。 この記事では、調達原価を構成する5つの要素を具体的に紹介し、VE活動や交渉に役立てるための視点を整理します。
調達コストの5つの基本構成要素
① 材料費(原材料・副資材)
- 鉄・アルミ・樹脂など、主材料の単価×使用量
- 副資材(接着剤、塗料、ネジ類など)も含む
材料のグレード・余尺・仕入先によって差が出やすい
② 加工費(工賃・設備稼働費)
- 切削・曲げ・溶接・成形などの加工程数と時間
- 設備償却・段取り・人件費の要素も反映
加工法を変える(例:CNC→プレス)だけでコストが激変することも
③ 管理費・間接費
- 工場の管理、検査、品質保証部門の人件費や共通費
- 設備維持、エネルギー費用も含まれることが多い
通常は「工賃に含まれる」形で提示されるが、実態は別枠で見るべき
④ 利益(サプライヤーマージン)
- 材料・加工原価の上に乗せられる利益分(通常5〜30%)
コストを直接下げるより、この「利益率」を調整交渉する方が早いことも
⑤ 外部要因コスト(輸送費・為替・在庫・関税)
- 輸送距離や国境をまたぐ場合の費用リスク
- 指定納期・緊急発注による特急料金やバッファ在庫費も含む
単価より“総調達コスト”で見るべき典型例
コスト構造を見える化するメリット
- 単価の内訳を理解することで、交渉の突破口が見える
- VE(Value Engineering)活動の入口になる
- 調達部門と設計・製造部門の共通言語が生まれる
実例:カバー部品のコスト分解
項目 | 概算金額 | 備考 |
材料費 | 120円 | ABS樹脂 板材切り出し |
加工費 | 200円 | 真空成型+トリミング |
間接費 | 80円 | 設備段取り・検査工数 |
利益 | 80円 | 原価合計の20% |
輸送・梱包費 | 50円 | 個装+国内物流 |
合計 | 530円 |
→ この構造を基に、「成型方法変更」「一体化設計」「ロットまとめ」での削減提案が可能に
まとめ
調達コストは“単価”ではなく、“構造”で見る時代です。
材料・加工・間接費・利益・物流…それぞれに手を打てば、合計の数%~20%の改善余地が生まれます。
設計者、購買担当、経営層それぞれがコスト構造を可視化できれば、調達戦略の精度は大きく変わります。
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