はじめに
設計図に書かれた一つひとつの寸法、材質、公差、仕上げ。 それらの多くが“なんとなく”で決められ、そのまま原価に大きく影響している現場は少なくありません。
VA(Value Analysis)/VE(Value Engineering)では、これらの仕様を機能から見直すことで“必要最小限”の仕様に整えるアプローチが基本です。
本記事では、VE的視点から「仕様の最小化」によってコスト最適化を図るための考え方と技術を解説します。
仕様の最小化とは?
「コストを下げるために仕様を落とす」ということではありません。
本質は、「製品の必要機能を損なわずに、過剰な仕様・過大な要求を排除する」ことです。
これは品質を維持しながら、適切なコストに導く“価値最適化”の考え方でもあります。
よくある「過剰仕様」の例
- 公差 ±0.01mm → 実際は±0.1mmで十分だった
- 表面仕上げ Ra0.4(鏡面) → 機能上はRa1.6で問題なし
- SUS304使用 → 耐食性不要な場所ではSPCCで代用可
これらはすべて機能要件を明確にせず、“とりあえず安全方向”で選んだ結果です。
仕様の最小化:VE視点での3ステップ
- 目的機能の明確化
- その材質・寸法・仕上げは何のため?
- 「保護」「位置決め」「意匠」など、明確な機能を再確認
- 機能に対して仕様が過剰でないか評価
- 数値基準で評価(実験値・耐久試験など)
- 類似品と比較して“常識外れ”がないか確認
- 代替仕様の検討と提案
- 材質のグレードダウン、精度緩和、工法変更など
- コスト・性能・納期の3軸でバランス検証
実例:機構部品の公差見直し
- 旧仕様:ピン挿入部 ±0.02mm → 高精度加工+全数検査
- VE評価:±0.1mmでも動作不良なし(稼働条件と公差重ね調査)
- 結果:加工工数30%減、検査時間短縮、品質問題なし
推進のコツ:設計レビューでの「仕様チェックリスト」
- 材質指定 → 同等代替材は?
- 公差 → 減らせる根拠は?
- 表面処理 → 機能に直結しているか?
- 加工法 → 一体構造、別工程の可能性は?
こうした視点を定例化すると、仕様の見直しが“設計文化”になります。
まとめ
仕様の最小化とは、機能を守りながら無駄な仕様を削ぎ落とす“設計の引き算”です。
VEの原点は「その仕様は何のためか?」という問いです。
設計初期からこの問いを持つことで、設計者は“品質とコストを両立する技術者”へと進化していきます。
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